実績

■季節の写真 (過去の写真はこちら写真(c)木原浩

裏山に蜜柑みのるや長者振 夏目漱石


写真家の木原浩先生にみかんの写真をご提供頂きました。


「みかん」といえば,漱石より,芥川龍之介の小品が思い浮かびます。


冬のある日,「私」の乗る鎌倉から東京への汽車の二等車に間違って座り込んだ,奉公に出る貧しい少女が,とつぜん車窓を大きく開ける。汽車はトンネルに入り,煤煙がなだれ込む。叱りつけようとしたとき, 汽車はトンネルを抜けて踏切にさしかかり,少女は,手に持ったいくつかのみかんを…。


芥川は,「私」の心象を含めたそれまでの情景を,寒々と灰色で描いたあと,少女が見送りの小さな弟たちに投げかける蜜柑を陽光に輝かせます。「杜子春」と並び,幼いころから何度も読んだ,忘れられない芥川作品です。

(2021年2月 岡)