実績

■季節の写真 (過去の写真はこちら写真(c)木原浩

雨にぬれ日にあたたみて熟柿かな 原石鼎


写真家の木原浩先生に柿の写真をご提供頂きました。


柿は,果物の中でも上位3番には入るほど好きなのですが(1位は梨,2位はすいか),熟した柿を食べるとお腹を壊します。柿を食べると調子が悪くなるのは私に限らないようで,石田三成が関ヶ原の戦いに敗れた後,柿を差し出されたが,体に悪いので断ったという話があります。

この話は小説などでよく出てくるのですが,その原典は茗話記と明良洪範されています。国立国会図書館デジタルコレクションに明良洪範がありましたので,以下に引用します(『新明良洪範巻之九』467頁)。

石田三成生捕と成て京都に於て誅せられし時其途中にて湯を乞しに折節其邊に無りしかば警固せしもの湯は只今求め難し咽乾かば爰にあま干の柿を持合せたれば此を喰れよと云い三成聞て夫は痰の毒なり食すまじと云に聞く人大に笑ひて只今首をはねらるヽ人の毒忌するこそおかしけれど云いしを三成聞て汝等如き者の心には尤也大義を思ふ者は假令首を刎らるる期迄も命を大切にして何卒本意を達せんと思ふ故成し由申しき

概ね,小説で出てくる話と同じですが,分かることは,①柿は,あま干しの柿,つまり干し柿だったこと,②三成は,痰の毒だから断ったことです。


①について,のどが渇いたといって白湯をくれと言っている人に,干し柿を与えるのは相当に性格が悪い。干し柿を食べたらますますのどが渇きます。したがって,警固の者は意地悪で三成に干し柿をあげると言ったことになります。三成は,当然,そんなものが食べられるか思いますが,単に要らないと言うのではなく,気の利いた断りかたをしたので後世にエピソードが残ったことが分かります。


②について,痰の毒とは何かが問題です。素直に読めば,痰が絡みやすくなるので,のどに悪いという意味か,痰が出る原因になるということで風邪を引きやすくなるという意味ですが,柿がのどに悪いという発想はピンときません。柿が原因の症状は便秘か下痢で,今も昔も変わらないはずです。そこで,さらに東洋医学的な読み方もできるのではないかと思いました。東洋医学において,痰は肺ではなく脾でできるとされています。脾とは,五臓の一つで,狭義の脾臓だけでなく,膵臓や胃腸も含む消化器系全般を指す概念です。そうすると,痰は脾が悪くなってできるところ,柿は脾の一部である胃腸によくないので痰の毒になる,と表現したと考えることができそうです。


私の話に戻ると,きまってお腹を壊すのは熟した柿のうちでも渋柿を焼酎を使って渋抜きする醂柿(さわしがき)です。八百屋などでも売っていますが,醂柿と書いてあることはほとんどなく,普通の柿として売っています。表面がぷにぷにとやわらかく,ちょっと表面を押すだけで果肉がどろっとでそうなくらい表皮が張っています。実の柿色が濃く,つやめいている100円の柿があれば,それはおそらく醂柿です。今年もお腹を壊すのを覚悟して食べたいと思います。

(2019年11月 神戸)